コラム

裁判例 慰謝料

夫婦の一方が、第三者に対し離婚慰謝料を請求することができるか

弁護士 幡野真弥

 既婚者と不貞行為を行ってしまった場合、不貞行為を行った第三者は、配偶者の、一種の人格的利益である「夫又は妻としての権利」を侵害したことになり(最二小判昭和54年3月30日)、配偶者に対して慰謝料(不貞慰謝料)を支払う責任があります。

 不貞慰謝料とは異なるものとして、離婚慰謝料というものがあります。
 離婚慰謝料については,①離婚の原因となった不貞行為等それ自体による精神的苦痛に対する慰謝料(離婚原因慰謝料)と、②離婚という結果そのものから発生する精神的苦痛に対する慰謝料(離婚自体慰謝料)の二つがあると理解されています。
 
 平成31年4月26日最高裁判決は、以下の事例で、離婚慰謝料について判断しました。 
 (1)妻と夫は平成6年3月に結婚した。
 (2)不貞相手は、平成21年6月以降、夫と不貞行為に及ぶようになった。
 (3)妻は、平成22年5月頃、夫と不貞相手との不貞関係を知った。夫は、その頃、不貞相手との不貞関係を解消し、妻との同居を続けたが、約4年後の平成26年4月頃に妻と別居した。
 (4)妻と夫は、平成27年2月。離婚の調停が成立した。
 
 不貞行為が継続的なものであっても、夫婦の一方が、他方と第三者との不貞行為を知った時から、それまでの間の慰謝料請求権の消滅時効(3年)が進行します。本件では、最後の不貞行為は、平成22年4月末頃で、妻は同年5月頃にはこのことを知ったとされているため、その頃から3年の経過により時効の期間が経過していることになります。

 他方、離婚慰謝料の消滅時効の起算点は離婚時であると判断されているので、今回の事例では、離婚慰謝料の時効の期間は経過前です。

最高裁平成31年2月19日判決は以下のように判断しました。

「夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は,これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても,当該夫婦の他方に対し,不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして,直ちに,当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないと解される。第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは,当該第三者が,単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず,当該夫婦を離婚させることを意
図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られるというべきである。以上によれば,夫婦の一方は,他方と不貞行為に及んだ第三者に対して,上記特段の事情がない限り,離婚に伴う慰謝料を請求することはできないものと解するのが相当である。」

 最高裁は、離婚慰謝料は第三者に対しては特段の事情がない限り請求できないと判断しました。もっとも、離婚したことが不貞慰謝料の増額事由となることは否定されてはいません。