配偶者の暴力による損害賠償(大阪高裁平成12年3月8日)
配偶者より暴力を振るわれた場合、それは離婚原因になり得るわけですが、損害賠償額はどのような基準で判断されるべきでしょうか。この点が問題になったものとして、大阪高裁平成12年3月8日の事例がありますのでご紹介します。
1 事案の概要
事案としては、夫が妻に暴力を振るい、妻は救急車で搬送・入院となり、妻は肩関節及び脊柱に運動障害の後遺症が残るほどの怪我を負いました。
その後、夫から妻に対する離婚訴訟が提起され、それに対し妻も夫に対して離婚を請求するとともに、暴力による損賠賠償等も請求したというのが本件です。
2 原審の判断
交通事故の場合と異なり、離婚における損害賠償には、明確な算定基準というものがありません。
そのため、交通事故の場合の基準を参考に賠償額は判断されるべきと思われますが、原審では夫婦間の暴力であることや、交通事故のような保険制度が完備されていないことを理由に、交通事故の損害算定に比して、低額の判断をしました。
3 高裁の判断
一方、高裁は以下の点から原審のこの判断を変更しました。
・家庭内暴力であるが、妻も夫と対等な人格であること
・本件暴行がきっかけで離婚訴訟に至ったことからすれば、妻から夫に対する損害賠償請求であることを理由に、他人間の傷害事件と比べて損害額を減額すべきではないこと
・保険制度がないことから交通事故における損害賠償より低額の賠償しか認めないのは、加害者の資力で損害額を左右するもので不合理であること(交通事故の場合、加害者が任意保険に加入しているか否かで損害の算定を変えることと同じで明らかに不合理であるとも述べています)
・むしろ、本件暴行は故意によるものであるから、過失により惹起される交通事故の場合よりも多額の慰謝料が認められるべきであること
上記を踏まえ、高裁では入通院慰謝料、後遺障害慰謝料の他、後遺症による逸失利益も認められています。