事離婚中の自宅を売却したら妻を退去させられる?|所有権に基づく明渡請求が権利濫用とされた事例
離婚をめぐる紛争中、夫が妻の住んでいる自宅を第三者に売却し、その買主から妻に対して「所有者なので退去してください」と明渡しを求めることはできるのでしょうか。
この問題について、東京高裁令和8年3月19日判決をご紹介します。
事案の概要
夫Zと妻Yは、Zが購入した土地・建物に居住していました。
Zが女性と不貞関係を持ち、夫婦は別居し、Zは離婚調停を申し立てましたが、調停は成立しませんでした。
その後、Zは、婚姻費用の負担が経済的に苦しいことなどを理由に、Yが居住している不動産を不動産業者Xに売却しました。
Xは、所有権を取得したことを理由に、Yに対して不動産の明渡しと賃料相当損害金を請求しました。
これに対してYは、ZとXによる売買や明渡請求が不法行為に当たるとして、慰謝料などを請求しました。
裁判所は「明渡請求は権利濫用」と判断
控訴審は、Xの明渡請求を認めませんでした。
ポイントは、Xが単に所有者になったというだけではなく、どのような経緯で不動産を取得したのかという点です。
裁判所は、Xの請求を認めると、
本来、夫であるZが妻Yに対して明渡しを求めることができないにもかかわらず、不動産を第三者に売却することで、結果的に妻を退去させることができてしまう
という不合理な結果になると指摘しました。
さらに、裁判所は、Xにはこのような不合理な結果を避ける信義則上の義務があったとし、その義務に違反したXによる明渡請求は権利濫用に当たると判断しました。
また、明渡請求が権利濫用とされたため、Xが求めた賃料相当損害金の請求も認められませんでした。
夫には不法行為責任を認めた
一方、裁判所は夫Zについては、Yに対する不法行為責任を認めました。
Z自身はYに退去を求めることができなかったにもかかわらず、不動産をXに売却することで、XからYを退去させようとしたと評価されたためです。
ただし、Xについては不法行為責任までは認められませんでした。
Xの明渡請求は権利濫用でしたが、このような判断が当時の確立した判例実務とまではいえなかったことから、Xに故意・過失があったとは認められないとされたためです。
まとめ
この裁判例は、離婚中の不動産売却と、買主による明渡請求の可否について、判断を示したものです。
不動産業者が離婚紛争の存在を知りながら、配偶者が居住する不動産を購入する場合には、単に「所有権を取得したから明渡しを請求できる」とはいえず、売買の経緯や夫婦間の紛争について十分な調査が必要となる場合があります。
