コラム

財産分与 裁判例

万馬券と財産分与〈奈良家審平成13年7月24日〉

弁護士 幡野真弥

 

 奈良家審平成13年7月24日をご紹介します。

 婚姻中、夫が香港で購入した馬券が偶然当たって万馬券となり、日本円で1億9000万円もの利益を得ました。夫は、この一部を寄付したりしたが、莫大な資産が残ったため、その一部を利用して、家族の居住用に物件を約8000万円の即金で購入しました。この物件は、売却され、3478万円が夫の手元に残りました。

 裁判所は「この万馬券は夫婦の婚姻中に購入されたものであるし、本件物件はもともと夫婦及び家族の居住用財産として購入され、現に12年もの間夫婦の生活の本拠として使用されてきたものであること、万馬券というのは射倖性の高い財産で必ずしも相手方の固有の才覚だけで取得されたものともいえないこと、万馬券が相手方の小遣いで購入されたものであるとしても、小遣いは生活費の一部として家計に含まれると考えることができること」といった事情から、この3478万円は財産分与の対象となると判断しました。

 もっとも、「本件物件を相手方の特有財産とみることはできないとしても、万馬券という射倖性の高い臨時の収入については相手方の運によるところが大きいので、本件物件取得については相手方の寄与が大きいことを認めるべきである。他方、本件物件での夫婦の共同生活が約12年に及んでおり、その間に申立人が専業主婦として本件物件の維持、管理について一定の寄与をしたことも否定できない。また、(中略)申立人は今後自分の生活のみならず長男の面倒も見なければならないのに、婚姻中ずっと相手方の希望により専業主婦であったため、相手方に比し収入を得る方法が限られていることは否定できず、現在もホームヘルパーとして稼働しているが、その収入は月額約15万円にとどまっていることを考えると、ある程度申立人の生活扶助的な要素を考慮する必要もある。これらの事情、その他本件に現れた一切の事情を総合すれば、申立人に対し本件物件の3分の1を分与するのが相当である。」と判断しました。