コラム

離婚訴訟 裁判例 有責配偶者

妻が有責配偶者の離婚

弁護士 長島功

 有責配偶者からの離婚請求は、原則として信義則上許されず、一定の場合に限り許されます。これは最高裁での判断であり、以前のコラムでも解説しています。
 具体的には、
①夫婦の別居が当事者の年齢及び同居期間と対比して相当の長期間に及んでいること、
②未成熟子がいないこと、
③相手方配偶者が離婚によって精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情が認められないこと
 これらを総合的にみて判断しているのが現在の実務で、広く知られているところでもあります。

 ただ、この判断は経済的な弱者である妻に対して、幼い子どもがいるにもかかわらず浮気をした夫が家を出て離婚を突きつけるという場面が暗に念頭に置かれています。
 そのため、妻が不貞行為等を行い有責配偶者となる場合には、この基準が必ずしも妥当しないケースがあり、東京高裁平成26年6月12日判決はこの問題意識が表れたケースといえます。
 同ケースは、未成熟子が2人いる中、妻が不貞行為を行い、夫に対して離婚訴訟を提起したというものです。
 原審は、原則どおり妻の離婚請求は、有責配偶者からの請求として信義則に反し許されないと判断しましたが、東京高裁は妻が有責配偶者であるとしながらも原審を取り消し、妻からの離婚請求を認めました。
 同判決は、有責配偶者からの離婚請求に関し、
 「有責配偶者からの離婚請求が否定されてきた実質的な理由の一つには、一家の収入を支えている夫が、妻以外の女性と不倫や不貞の関係に及んで別居状態となり、そのような身勝手な夫からの離婚請求をそのまま認めてしまうことは、残された妻子が安定的な収入を断たれて経済的に不安定な状態に追い込まれてしまい、著しく社会正義に反する結果となるため、そのような事態を回避するという目的があったものと解されるから、仮に、形式的には有責配偶者からの離婚請求であっても、実質的にそのような著しく社会正義に反するような結果がもたらされる場合でなければ、その離婚請求をどうしても否定しなければならないものではないというべきである」
 との考えを示しました。
 その上で、まず②未成熟子がいることについては、
 「現在六歳の長男と四歳の長女がいるが、妻としては、働きながら両名を養育監護していく覚悟であることが認められるところ、・・・妻による養育監護の状況等に特に問題もないことを考慮すれば、妻の本件離婚請求を認容したとしても、未成年者の福祉が殊更害されるものとは認め難い」
 と判断しました。
 また、③相手が苛酷にならないかという点についても、
 「夫は、もともと妻との離婚を求めていた経緯があるだけではなく、・・・約九六一万円の年収があり、本件離婚請求を認めたとしても、精神的・社会的・経済的に著しく不利益な状態に立ち至るわけでもない」
 との判断を示し、結論として、
 「形式的には有責配偶者からの離婚請求ではあるものの、これまでに述べた有責配偶者である妻の責任の態様・程度はもとより、相手方配偶者である夫の婚姻継続についての意思及び夫に対する感情、離婚を認めた場合における夫の精神的・社会的・経済的状態及び夫婦間の子である未成年者らの監護・教育・福祉の状況、別居後に形成されている相互の生活関係等を勘案しても、妻が求めている離婚請求は、社会正義に照らして到底許容することができないというものではなく、夫婦としての信義則に反するものではない」
 としています。

 このように、妻が有責配偶者の場合には、必ずしも従来の基準がそのまま妥当しないケースも考えられます。もっとも、妻が有責配偶者の場合であるからといって、常に離婚の請求が緩やかに認められるという訳ではなく、あくまで個別の事情によるところも大きいと思われます。
 実際、上記ケースは夫が離婚を切り出していたり、夫が妻の人格を否定する言動を行う等、夫にも婚姻関係の破綻に関し一定の責任がうかがえるという事情がありました。
 とはいえ、妻が有責配偶者の場合は、夫が有責の場合と比較して離婚が認められやすい傾向はあるように思われますので、お困りの方は一度ご相談ください。