コラム

離婚訴訟 裁判例 有責配偶者

有責配偶者からの離婚請求(最高裁平成6年2月8日判決)

弁護士 幡野真弥

 最高裁平成6年2月8日をご紹介します。

 事案は以下のとおりです。
・妻(昭和13年生)と夫(昭和11年生)は、昭和39年婚姻の届出をし、4人の子女を設けた。
・夫は、昭和54年に家出して行方をくらました。妻は、4人の子を育て、夫の帰りを待っていたが、子らが幼いため仕事も思うようすることができず、自宅も競売に付され、ついに生活保護を受けるに至った。
・夫は、昭和56年ころ二児を抱える女性と知り合い、同58年に同女と同せいを始めた。
・妻は、昭和60年6月ころ、夫が女性と同居している事実を知り、夫に対して再三にわたり手紙や電話で積年の恨みの気持ちをぶつけ、自分のもとに戻ってくるよう強く求めたが、夫は、かえって妻への嫌悪感を募らせ、離婚して同棲している女性と正式な婚姻生活に入りたいとする意思を一層固めるようになった。
・夫は、妻との同居生活を回復する意思を全く持っておらず、強く離婚を望み、離婚に伴う給付として700万円を支払うとの提案をしている。妻は、三男を養育していく上では父親の存在が欠かせないとの理由で離婚に反対している。三男を除く夫婦の子は婚姻または独立している。

 このような事実関係で、最高裁は、「上告人と被上告人との婚姻関係は既に全く破綻しており民法七七〇条一項五号所定の事由があるといわざるを得ず、かつ、また被上告人が有責配偶者であることは明らかであるが、上告人が被上告人と別居してから原審の口頭弁論終結時(平成五年一月二〇日)までには既に一三年一一月余が経過し、双方の年齢や同居期間を考慮すると相当の長期間に及んでおり、被上告人の新たな生活関係の形成及び上告人の現在の行動等からは、もはや婚姻関係の回復を期待することは困難であるといわざるを得ず、それらのことからすると、婚姻関係を破綻せしめるに至った被上告人の責任及びこれによって上告人が被った前記婚姻後の諸事情を考慮しても、なお、今日においては、もはや、上告人の婚姻継続の意思及び離婚による上告人の精神的・社会的状態を殊更に重視して、被上告人の離婚請求を排斥するのは相当でない。
 上告人が今日までに受けた精神的苦痛、子らの養育に尽くした労力と負担、今後離婚により被る精神的苦痛及び経済的不利益の大きいことは想像に難くないが、これらの補償は別途解決されるべきものであって、それがゆえに、本件離婚請求を容認し得ないものということはできない。
 そして、現在では、上告人と被上告人間の四人の子のうち三人は成人して独立しており、残る三男Dは親の扶養を受ける高校二年生であって未成熟の子というべきであるが、同人は三歳の幼少時から一貫して上告人の監護の下で育てられてまもなく高校を卒業する年齢に達しており、被上告人は上告人に毎月一五万円の送金をしてきた実績に照らしてDの養育にも無関心であったものではなく、被上告人の上告人に対する離婚に伴う経済的給付もその実現を期待できるものとみられることからすると、未成熟子であるDの存在が本件請求の妨げになるということもできない。」と判断しました。


 有責配偶者からの離婚請求であっても、別居期間が13年余に及ぶこと、夫婦間の未成熟の子は3歳の時から一貫して妻の監護の下で育てられて間もなく高校を卒業する年齢に達していること、夫が別居後も妻に送金をして子の養育に無関心ではなかったこと、夫の妻に対する離婚に伴う経済的給付も実現が期待できることなどの事実関係のものとでは、離婚請求は認容されるべきであると判断した事例として参考になります。