コラム

離婚訴訟 裁判例 有責配偶者

有責配偶者からの離婚請求(最高裁平成2年11月8日判決)

弁護士 幡野真弥

 最高裁平成2年11月8日判決をご紹介します。
 事案は、次のとおりです。
・夫と妻とは、昭和33年5月に婚姻し、2子をもうけた。
・夫は、昭和56年夏ころ、妻に対して「一人になって暫く考えたい、疲れた。」と言って、妻と同居していた家を出て別居し、当初の2、3か月間は週に2日位は帰って来ていたが、その後はこれも止め、現在に至っている。
・夫は、別居の前から訴外人と情交関係があり、別居後に同人と同棲するようになり、間もなく同人とは別れたものの、妻及び子らに自己の住所を明かさず、妻との連絡も夫の仕事上の事務所にさせている。
・夫は、妻に対する生活費として、昭和61年2月ころまでは月額60万円を、その後は35万円を交付してきたが、妻が夫名義の不動産の持分2分の1に対して処分禁止の仮処分の執行をしたことに立腹して、昭和62年1月から右金員の交付を中止した。しかし、その後、婚姻費用分担の調停が成立し、夫は昭和63年5月からは妻に対して月額20万円を送金しており、妻は、ほかに内職により月額6万円の収入を得ている。
・夫は、従来、離婚に伴う財産関係の清算として、妻の居住している夫名義の土地建物を処分し、抵当権の被担保債務を弁済した残金を妻と折半するという提案をしていたが、原審の和解においては、処分代金から税金、手数料等の経費を控除した残金を折半し、抵当権の被担保債務は夫の取得分の中から弁済するとの譲歩案を示している。
・夫婦に未成熟子はない(成人と学生)、両名との離婚については、妻の意思に任せる意向である。

 最高裁は、このような事案で、以下のように判断しました。

 「有責配偶者からの民法770条1項5号所定の事由による離婚請求の許否を判断する場合には、夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及んだかどうかをも斟酌すべきものであるが、その趣旨は、別居後の時の経過とともに、当事者双方についての諸事情が変容し、これらのもつ社会的意味ないし社会的評価も変化することを免れないことから、右離婚請求が信義誠実の原則に照らして許されるものであるかどうかを判断するに当たっては、時の経過がこれらの諸事情に与える影響も考慮すべきであるとすることにある(略)。したがって、別居期間が相当の長期間に及んだかどうかを判断するに当たっては、別居期間と両当事者の年齢及び同居期間とを数量的に対比するのみでは足りず、右の点をも考慮に入れるべきものであると解するのが相当である。」
 「上告人と被上告人との別居期間は約8年ではあるが、上告人は、別居後においても被上告人及び子らに対する生活費の負担をし、別居後間もなく不貞の相手方との関係を解消し、更に、離婚を請求するについては、被上告人に対して財産関係の清算についての具体的で相応の誠意があると認められる提案をしており、他方、被上告人は、上告人との婚姻関係の継続を希望しているとしながら、別居から5年余を経たころに上告人名義の不動産に処分禁止の仮処分を執行するに至っており、また、成年に達した子らも離婚については婚姻当事者たる被上告人の意思に任せる意向であるというのである。そうすると、本件においては、他に格別の事情の認められない限り、別居期間の経過に伴い、当事者双方についての諸事情が変容し、これらのもつ社会的意味ないし社会的評価も変化したことが窺われるのである。」
 として、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻しました。

 本判決は、有責配偶者からの離婚請求が認められるための要件だである「相当の長期間に及ぶ別居期間」について、単なる数字の比較ではなく、別居後の当事者の態度等も含めて判断されるものだと示した事例です。