コラム

離婚訴訟 裁判例 有責配偶者

有責配偶者からの離婚請求(最高裁昭和62年9月2日判決)

弁護士 幡野真弥

【事案】
・X(夫、74歳)は、昭和24年にはすでにAと内縁関係を形成していた者であり、Y(妻、70歳)との別居後36年を経過していました。。
・XはYとの離婚を求めて裁判になりましたが、一、二審とも、(一)X、Yの婚姻関係は、昭和24年には破綻しており、以後35年余にわたりその状態は継続し、現在では回復不能である、(二)右破綻の原因は、XがAと同居を継続したことであって、その責任は専らXにある、(三)そのほかの事情によっても、本訴請求を認容することは、信義誠実の原則に照らし、許されない、として請求を棄却していました。当時、有責配偶者からの離婚請求は認められないというのが判例の考え方でした。
 
しかし、最高裁昭和62年9月2日判決は、従来の判例を変更し、

①有責配偶者からされた離婚請求であっても、夫婦の別居が当事者の年齢及び同居期間と対比して相当の長期間に及び、その間に未成熟子がいない場合には、相手方配偶者が離婚によって精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、有責配偶者からの請求であるとの一事をもって許されないとすることはできない。
②有責配偶者からされた離婚請求であっても、夫婦の別居期間が三六年に及び、その間に未成熟子がいない場合には、相手方配偶者が離婚によって精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、認容すべきである。

 と判示しました。

 この判例以降、①夫婦の別居が当事者の年齢及び同居期間と対比して相当の長期間に及んでいること、②未成熟子がいないこと、③相手方配偶者が離婚によって精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情が認められないこと、の3つの要素が、有責配偶者からの離婚請求が認容されるかどうかの判断要素となり、裁判例が積み重ねられることとなりました。

 なお、本判例の差戻後の控訴審(東京高裁平成元年11月22日判決)では、離婚が認められました。