コラム

財産分与 裁判例

財産分与の変更

弁護士 長島功

 離婚時に財産分与について取り決めや判断がなされていたとしても,離婚後に再び争いになってしまうケースがあります。そこで,今回はそのようなケースについて解説をしたいと思います。

1 原則
 まず原則としては,一度当事者で合意をしたり,判決等で金額が決まった場合には,再度財産分与について争うことはできません。
 これは,紛争の蒸し返しですし,このようなことが許されてしまうと合意や判決の意味がなくなってしまい,法的な安定性も害されるからです。
 実際の事例でも,公正証書作成後や調停成立後に,財産分与の請求をした事案で申し立ては却下されているものがあります。

2 変更が認められる場合
 もっとも,どのような場合にも,新たに財産分与の請求をすることが許されない訳ではありません。その例をいくつかご紹介します。
(1)財産の隠匿
 財産分与の合意や判決等が確定した後に,新たに共有財産となるべきものの存在が判明した場合には,再度財産分与を請求することも許される場合があります。
 実際の事例では,共有財産となるべき国債があるにもかかわらず,妻が夫に秘匿して財産分与の協議を終了させた事案があります。この事案では,離婚後2年を経過してしまっていたことから,再度財産分与としての請求には支障がありました。ただ,財産分与の対象とすべき財産を妻が秘匿していたことにより,夫は妻に対する財産分与請求権行使の機会を失ったとして,共有持分権侵害の不法行為が成立するとし,事実上取り決めた財産分与の修正を認めた事案があります(浦和地裁川越支部平成元年9月13日判決)。
(2)あまりに過大な財産分与
 また,財産分与の取り決めを1度はしたものの,その内容があまりに過大で支払自体が困難と思われるような事案で,裁判所は,合理的な範囲内の財産分与の履行は命じたものの,それを超える部分については権利の濫用であるとした事例があります(東京高裁平成2年6月27日判決)。
(3)錯誤や脅迫
 その他,意思表示に問題があるケースでは,他の契約同様その効力が否定されることはあります。
 例えば,財産分与の合意をするにあたって錯誤に陥っていた場合には無効になるとしたものがあります(現在は民法が改正され,無効ではなく「取消し」です )。この事例では,財産分与の合意をしたものの,かなり高額の譲渡所得税が課税されることが判明したというものです。
 また,暴力等により相手の自由意思を奪って財産分与等の合意書を取り交わしたケースでは,意思表示としての効力を有さないとして,やはり財産分与契約は無効と判断したものがあります。

3 最後に
 このように,一度取り決めた財産分与の合意や判決等は,その後何があっても絶対に修正することができないという訳ではなく,一定の場合には修正を受けます。ただ,原則としては蒸し返すことはできず,あくまで例外的に修正がされるだけなので,実際上は合意後や判決後に財産分与の内容を修正をすることは非常に大変です。
 ですので,財産分与の取り決めをする場合には,その前提で慎重に行うようにしましょう。