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財産分与

目次

1. 財産分与とは

財産分与とは、離婚に伴い、夫婦の一方の財産を他方に分与するものです。

財産分与には、①夫婦が共同して形成した財産の清算、②離婚後の扶養、③慰謝料、の3つの要素が含まれているとされています。

もっとも、基本的には、①夫婦が共同して形成した財産の清算という要素が占める部分が大きいです。

2. 財産分与の種類

  1. 清算的財産分与について

    清算的財産分与について、具体例を使ってご説明します。
    夫婦が別居した時点で、夫の預金が300万円、妻の預金が100万円というケースです。
    このとき、別居時点の夫婦の財産は合計で400万円です(300万円+100万円)。
    この400万円を2分の1にすると、200万円です。婚姻中に形成した財産に対して、夫婦は相互に2分の1の権利を持っていると考えられており、これを「2分の1ルール」といいます。
    200万円-100万円(妻名義の財産)=100万円ですので、妻は夫に対して、100万円の財産分与請求権を持っていることになります。

    以上、イメージしていただきやすいかと思い、具体例を使って財産分与についてご説明させていただきました。

    もっとも、実際の事案では、預金と違って、不動産など金額の評価が明確ではない財産もありますし、また、財産分与の計算から除かれる「特有財産」や、「2分の1ルール」を修正する必要がある事情などもあります。

  2. 扶養的財産分与について

    婚姻期間中は、夫婦は互いに扶助義務を負っており、収入が少ない配偶者(権利者)は、相手方配偶者(義務者)に対して、婚姻費用(生活費)を請求することができます。
    離婚後は、扶助義務はなくなり、それぞれが自立して生活することが原則であり、自身で生計を立てていく必要があります。
    もっとも、妻が婚姻や出産・育児をきっかけに仕事を退職しているケースが多く、ある程度の財産分与がなければ、離婚後、経済的に安定した生活を送ることが難しいこともあります。
    そこで、一定の場合には、離婚後の扶養という観点から、財産分与が決められることとなります。これが扶養的財産分与です。
    ただし、あくまで離婚後の経済的自立は自身で行うことが原則ですので、扶養的財産分与は補充的なものに留まります。
    扶養的財産分与は、当事者の資産状況、収入、健康状態、就職の可能性等を考慮して決められることとされています。明確な基準は確立されていませんが、婚姻費用相当額が参考とされているケースも多いです。
    そして、考慮できる期間は、「元配偶者が自活できるようになるまでの期間」とされており、具体的には1~5年の間が多いです。

  3. 慰謝料的財産分与について

    財産分与において、慰謝料的要素を考慮することもできます。もっとも、慰謝料については、財産分与とは別個に、独立して請求されることも多いです。

3. 財産分与の対象となる財産について

  1. 基準時

    財産分与は、夫婦で共同して築いた財産を清算し、夫婦の一方が他方に財産を分与するものです。
    しかし、財産は日々減ったり増えたりしています。財産分与の対象となる財産は、いつの時点で存在する財産であれば良いのでしょうか。財産分与の対象となる財産を確定させる基準時はいつか、ご説明します。

    財産分与とは、「夫婦で共同して形成した財産」を清算するものですので、夫婦の経済的な共同関係が終了した時点で存在する財産が、財産分与の対象となる財産となります。
    そして、多くのケースでは、別居した日が、財産分与の基準時とされ、別居時に存在する財産が、財産分与の対象となる財産となります。

    もっとも、同居と別居が繰り返されているケースや、単身赴任中にそのまま帰宅せずに別居に至ったケースなどは、基準時について主張が対立し、争いになることもあります。

  2. 対象となる財産

    財産分与の対象となる財産は、基準時(別居時)に存在する財産ですが、その財産の価値を評価する基準時は、財産を分割する現在を基準にします(訴訟の場合は、口頭弁論終結時です)。
    たとえば、別居時に存在する株や不動産を評価するときは、別居時点の株価や不動産価格ではなく、現在の株価や不動産価格が、財産の評価額になります。
    別居時に存在してはいたものの、その後、処分してしまい、現在は残っていない場合は、実際に不動産や株を売却した金額が評価額になります。
    それでは、以下、問題となる財産の種類毎にご説明します。

    1. 不動産
      別居時に存在した不動産を、現在の評価で算定します。
      住宅ローンが残っている場合は、ローン額を差し引きます。
      夫婦の一方が、独身時代の預金から不動産購入資金の頭金を支出したときには、不動産取得についての寄与度を調整することがあります。

      不動産とローンの関係の処理の方法については、様々なケースや考え方があります。

    2. 預貯金
      原則として、別居時における口座の残高を基準にします。ただし、別居直前に多額の預貯金が引き出され、その使途も不明であるような場合は、その引き出された金額は別居時にも財産として残ったものとして取り扱われます。

    3. 生命保険
      別居時点での解約返戻金が、財産分与の対象財産となります。掛け捨て型の保険は、解約返戻金がありませんので、0として評価されます。

    4. 株式、有価証券
      別居時に存在した株式を、現在の時価で評価することとなります。

    5. 退職金
      将来の退職金も、支給の蓋然性が高い場合は、財産分与の対象となります。ただし、婚姻前の部分は、除外することとなります。

4. 財産分与の清算割合について

財産分与では、形成された財産への寄与や貢献の程度は、夫婦で等しいという考えが原則です(いわゆる「2分の1ルール」といいます)。

多くのケースでは、この2分の1ルールに従って、分与後の財産が等しくなるように、財産分与の金額が計算されます。

もっとも、財産形成への寄与や貢献の程度が夫婦で異なるといえる特段の事情がある場合は、2分の1ルールが修正され、清算の割合が、5対5ではなく、6対4や7対3になるケースもあります。

例えば、夫婦の一方が、医師、会社経営者、スポーツ選手等、特別な資格や能力があり、この資格や能力に基づき、多額の財産が形成されたといえるようなケースです。

具体的な数字で計算しますと、別居時の夫名義の財産の合計が3億円、妻名義の財産の合計が5000万円で、清算割合が6対4であれば、財産分与の金額は

3億5000万円(夫婦の財産の合計)×0.4(妻の寄与度)-5000万(妻名義の財産)=9000万円 となります。

また、上記のように、財産の総体ではなく、特定の不動産や株などの個別の財産について貢献度が高い場合には、その個別の財産ごとに、寄与度を考慮することもあります。

5. 特有財産について

  1. 特有財産とは

    財産分与の対象となる財産は、「夫婦が共同して築いた財産」といえる財産のみであって、夫婦が共同して築いた財産とはいえない財産は、財産分与の対象から外されることになります。
    このような、財産分与の対象ではない財産を、特有財産といいます。

  2. 特有財産となりうるもの

    特有財産となりうる典型的なものは、以下の通りです。

    1. 婚姻前から持っていた預貯金
    2. 親から相続で得た遺産
    3. 婚姻前の預金から支出して形成された財産
      例えば、マンションの頭金を、独身時代の定期預金から支出した場合などです。このとき、マンションの価値の一部が、特有財産になります。
      逆に、独身時代に不動産を購入し、結婚後、ローンを夫婦の収入から支払っていたようなケースでは、結婚後の支払いによって取得したマンションの価値の一部は、夫婦の実質的共有財産となり、財産分与の対象に含まれることになります。
    4. 夫婦の一方の専用のもの
    5. 夫婦で特有財産とする旨合意した財産
  3. 注意を要する子供名義の預貯金

    子ども名義の預貯金については、子ども自身が小遣いやアルバイト代を貯めたような場合は、財産分与の対象にはなりません。
    しかし、夫婦が子どもの将来の学費として、子ども名義で貯金をしていたような場合は、夫婦の共有財産として、実際に口座を管理していた親名義の財産として評価されることがありますので、注意が必要です。
    もっとも子どもの学費のための貯金ですので、その貯金は財産分与で清算せずに取っておき、将来、子が進学する時には、その貯金から優先的に学費を充当することとし、不足分を再度協議する、という条件を取り決めておくことも可能です。

  4. 特有財産の立証

    不動産であれば、特有財産であることを立証することは比較的容易ですが、預金は、同居中に増減があり、結婚後の収入と混在してしまい、特有財産であることの立証が困難となることもあります。そういった場合は、婚姻時の財産の額を考慮することもあります。

6. 不動産と住宅ローン

財産分与で問題になることが多い財産は、住宅ローンのある不動産です。具体的な事例を用いながらご説明します。

  1. 財産分与における考慮方法

    1. 具体例
      婚姻期間中に、夫名義で、5000万円でマンションを購入しました。
      購入資金の原資は、夫婦で貯めた預金500万円と、夫名義の住宅ローン4500万円です。その後、夫婦は一緒に生活して残ローンを返済していきましたが、あるとき別居し、そして離婚することになりました。
      別居時のローン残高は3000万円、現在のマンションの評価額は4000万円、他に夫婦には財産はありません。
      このケースでは、財産分与はどうなるでしょうか。

    2. 通常の算定方法
      まず、マンションの価値は現在の評価額である4000万円です(購入価格5000万円ではありません)。
      そこから、別居時の残ローンである3000万円を引きます。
      差額1000万円が、夫婦で築いた財産です。
      この財産を2分の1ずつ分けることになりますので、夫から妻に対して支払う財産分与の額は500万円です。

    3. 頭金500万円を、夫が婚姻前の預金から出していた場合
      では、頭金500万円を、夫が婚姻前の預金から出していた場合はどうなるでしょうか。
      結婚前の預金500万円は、財産分与の対象とならない特有財産です。
      考え方は複数ありますが、単純化された計算方法で考えることにします。
      マンション購入代金5000万円のうち、頭金500万円は10%です。残りの90%だけが、財産分与の対象となります。
      マンションの評価額4000万円×90%=3600万円から、別居時の残ローン3000万円を引き、残りは600万円です。この600万円が、夫婦で築いた財産です。したがって、財産分与の額は、600万円の2分の1である300万円となります。

  2. 不動産の名義を移転する場合の処理について

    1. 具体例
      別居時点で、夫婦の財産状況は以下のとおりでした。
      夫名義(合計1500万円)

      • マンション 2000万円
      • 預金 500万円
      • 住宅ローン -1000万円
        妻名義(合計800万円)
      • 預金800万円
    2. 不動産の名義変更しない場合
      夫婦の財産の合計は、2300万円です。(2000万円+500万円-1000万円+800万円)
      清算割合を2分の1とすれば、夫から妻に350万円を分与することになります。(2300万円÷2-800万円)

    3. 不動産の名義を妻とする場合
      それでは、妻は離婚後も子らとマンションに居住し続けることを希望し、そのためマンションの名義とローンの名義を妻に変更する合意をした場合は、財産分与の額はいくらになるでしょうか。

      この場合、夫婦の財産状況は以下のとおりとなります。
      夫名義(合計500万円)

      • 預金 500万円
        妻名義(合計1800万円)
      • マンション 2000万円
      • 住宅ローン -1000万円
      • 預金800万円

    したがって、妻は夫に650万円を支払うことになります(2300万円÷2-1800万円)。

7. まとめ

以上、原則的、且つシンプルなケースでご説明しましたが、実際は、不動産については、マンションに特有部分があったり、妻名義にローンを変更できなかったり、別居から離婚成立までの間に夫がローンの返済を続け、妻が引き受けたローンと別居時のローンが変動していたりすることがあります。

こういった場合は、また別途清算が必要となってきたり、異なる条件での合意が必要となってきますので、財産分与でお困りの際は、一度弁護士にご相談することをお勧めします。

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